見えなくなる前に──0歳→1歳人口から見る日本の「乳児損耗」

はじめに

日本の乳児死亡率は世界最低水準にある。
この点に異論はない。

一方で、指標の取り方を変えると、別の像が浮かび上がる
本稿では、総務省の人口推計に基づき、

各年10月1日時点の「0歳人口」と「1歳人口」を比較する

という、きわめて単純な方法で、
0歳→1歳の人口保持率を見てみたい。

これは新生児死亡率を評価する試みではない。
むしろ、**周産期・新生児期をほぼ通過した後の“残余の損耗”**に注目するための操作である。


使用したデータと方法

  • 出典:総務省統計局「人口推計(各年10月1日現在)」

  • 対象:2014年〜2024年

  • 単位:千人

  • 日本人・外国人を含む総人口

比較方法は単純である。

  • ある年の 0歳人口

  • 翌年の 1歳人口

を比較し、その差を損耗として‰(パーミル)表示した。


データ一覧(筆者作成)

0歳 1歳 損耗率(‰)
2014 1020 1041
2015 961 974 45.1
2016 1002 960 1.04
2017 963 1000 2.00
2018 942 961 2.08
2019 894 941 1.06
2020 837.1 871.6 25.1
2021 830 836 1.35
2022 798 828 2.41
2023 757 797 1.25
2024 716 757 0.00

※ 2014–2015、2020年は制度・推計条件の影響が大きい可能性があり、解釈には注意が必要。


まず確認しておくべき点

この比較には、次の特徴がある。

  • 新生児死亡(出生直後)は ほぼカットされている

  • 0歳人口には「9月生まれ以前」が主に含まれる

  • 比較対象は「すでに一定期間生存した集団」

つまりこれは、

生物的に最も脆弱なフェーズを超えた後の損耗

を見ていることになる。


生物学的直観とのズレ

純粋に生物的な脆弱性だけが要因なら、

  • 出生直後の損耗が最大

  • 時間が経つほど、生存集団の平均的脆弱性は下がる

したがって感覚的には、

0歳→1歳の損耗は 1‰を切る のが自然

である。

ところが実際には、

  • 恒常的に 1〜2‰前後

  • 年によっては 2‰を超える

値が観測される。

これは単年の異常というより、構造的に存在している量に見える。


何が含まれているのか(断定はしない)

この損耗がすべて「死亡」であるとは限らない。

考えられる要素としては、

  • 後期乳児死亡(事故・感染症SIDS 等)

  • 家庭環境・心理的要因

  • 外国人世帯の帰国・移動

  • 住民登録・統計制度上の脱落

がある。

重要なのは、

「死亡かどうか」ではなく、「国家が人口として保持できなかった」

という点である。


2020年という突出

2020年の値は明らかに異質である。

  • 医療逼迫

  • 社会的孤立

  • 産後支援の断絶

など、複合的要因を想定することは可能だが、
ここでは深入りしない。

本稿の主眼は、平時においても1‰前後の損耗が常在しているという点にある。


見えなくなる問題

出生数はすでに70万人を切った。
今後は、

  • 1‰ = 数百人

  • 年次変動は「誤差」として処理されやすい

つまり、

問題が消えるのではなく、見えなくなる

フェーズに入る。

これは医療の失敗ではない。
指標設計の問題である。


おわりに

新生児医療の水準が高いことと、
社会全体が乳児を保持できているかは、同じではない。

本稿で示したのは結論ではなく、違和感の位置である。

数字が小さいから安全なのではない。
数字が小さくなったから、見えなくなっただけかもしれない。


補記

本稿は特定の政策・医療行為・思想を批判するものではない。
公開統計に基づき、指標の取り方によって何が見えるかを示す試みである。